最終アニメ批評: 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ
とても良かったです。
巷でぎゃ~スカと騒いでる人たちは恐らく、このアニメの根本的な部分を見落としたまま最後まで来てしまったのではなかろうかと思われます。それはこのアニメの主人公たちはヒーローでも無く歴戦の勇士でも無く、増してや早熟の天才でもありません。あくまでも無学な"少年兵たちの物語"であると視点です。
鉄華団のメンバー達はオルガやミカヅキを始め、誰一人としてまともに読み書きが出来ず、自分の名前さえ書けない連中です。それがクーデリアに出会い初めて読み書きを教えて貰い、この世の中に「勉強する」という概念がある事を知るのです。実際のアフリカの少年兵たちの境遇はもっと悲惨でヒューマンデブリどころの騒ぎでは無いのですが…それはアニメ風にかなりマイルドに描写されています。
ともかくこの物語は革命の英雄や異世界勇者の冒険譚などでは決して無く、ただひたすら生き延びるために戦い続けた少年兵たちの物語であると言う視点が欠けていると、大きくストーリを読み違える事になります。そこを間違えてしまうとやれ「ヤクザの成り上がりストーリ」だとか「ラスタル.エリオンの一人勝ち」みたいな明後日の感想を抱く事になるのだと思います。
鉄華団の少年達は裏社会で成り上がりたい訳でも無く、貴族的支配階級の象徴であるギャラルホルンを廃したい訳でも無く、ただひたすらに生き延びるため、明日の心配をしなくて済む生活だけを望んで戦っています。CGSから鉄華団にかけて参加メンバー内で小学校を卒業どころか数ヶ月の就学経験有りのメンバーがビスケット1人しか居らず、本当の意味で完全に無学な彼らが、今日一日だけを生き残るためには銃を取り目の前の"敵"を殺す事しか教えて貰っていないため、それ以外の事を完全に全く知らないまま育って来ていると言う設定なのです。
ですので鉄華団のメンバー達はオルガやミカヅキを含めてほとんどが何らかの発達障害や学習障害を患っている可能性が高く、それでも必至に自分の名前の書き取り練習を戦闘の合間に行ったりして勉強しているものと思われます。後に唯一の高学歴メンバーであるザックが加入した当初は、一人だけ団員の中でやや浮いた感じになっているはそのためですね(いわゆるIQが20違うと話が通じない的な)。
また良くある勘違い批判系で、"鉄血はロボアニメの禁じ手である「マシンに乗る前に殺せば楽勝」を本当にやってしまった"~的な言説が見られますが。これはそもそも本家本元?である初代ガンダムでラスボスであったギレンを何の関係もないキシリアが普通に銃で後ろから暗殺すると言う前代未聞の掟破りをやらかしていますので、それを言うのであればむしろ鉄血は本来のガンダムに寄り添った演出や話作りに徹していると褒める部分でしょう。中盤の強敵であったランバ.ラルもMS戦では無く銃撃により負傷した後、覚悟の自爆で果てたし。ラストのシャア対アムロの最終対決もMS戦では無く、生身のフェンシング勝負での決着でした。
またDVDの売上枚数なども現時点でも既にGなんとか?の2割以上もBD/DVDの枚数を多く売り上げており、さらに今後はこの2期の分も積み重ねられる訳なので、最終的には15万~16万前後の数に達すると思われます。無論、この程度の数字ではガンダム界の王者である『SEED&DESTINY』の足元にも及ばない訳ですが(笑)。少なくとも前回の失敗作?よりは良い数字を出しており、またこれ以外にもプラモデルの売上がかなり好調だと聞きますので、商業的には充分に成功したと言って良いでしょう。この鉄血は客観的に見れば見るほど、確実に期待に応えて充分に成功を収めた作品である事は疑い様の無い事実として受け入れなければなりません。
何はともあれ。最初にも述べた通り、これは無学な少年兵たちの物語。何も知らなかった彼らが、数少ない自分達に出来る事をやり続ける事によって、ようやく"普通の人間"としての第一歩を踏み出し始めるまでの物語なのです。