日記:2018-11-13

習慣アニメ批評: スラ太郎

あ~これはいけませんねェ…。スライム主人公の話をやると決めた時から、この「悪いスライムじゃ無いヨ」は絶対に避けては通れないネタですが…勇者さんが失笑したのは頂けなかった。

無論、勇者さんも多少の時差は有れど80年代以降の現代日本からの転生者ならば、それはそれで良かったのですが。最初にキッパリと昭和初期の大戦中の幼児?時代に転生させられた描写があるし、何よりも本人自身が全くビデオゲームというモノを実体験した事が無く知人からのまた聞きだと言ってる点が問題です。

まず昭和初期の大戦中の人間に現代のビデオゲームの概念が全く理解出来ない問題。そもそもこの時代には白黒テレビすら無く一般庶民には動画という概念すら存在しない時代。唯一の動画メディアは映画(活動写真)しか無く、しかしそれも本土空襲される大戦末期の1940年代には軍の検閲と物資不足で娯楽作品は無くなり、また子供は少国民としてド田舎に強制疎開させられて毎日が戦時教練に明け暮れる日々であり、たまの娯楽で映画を楽しむ様な状況では無かった(そもそも贅沢は敵だの時代)。

こんな時代世界の人間が完全に空想だけでDQの様なビデオゲームの概念を想像する事は不可能であり、故に友人知人から如何に詳細にその逸話などを語り聞かされていたとしても、その話をフイに聞かされて思わず失笑する様な事はあり得ないのです(1990年代に今のスマホ時代を誰も空想すら出来無かった様に)。この場合の勇者さんのホモサピエンス的に正しい反応は全くの無反応か、或いは「涙する」です。

無反応はまあ当然として、何故に涙を流すのが正解となるのかと言うと。まだその過去は語られていませんが、勇者さんが無理矢理に転生させられた際に見ず知らずの異世界で良くしてくれた友人が居て、その人が郷里を懐かしむ際に語っていた「悪いスライムの話」を全く予期せぬ時と場所で、正に目の前のスラ太郎が言ったのを聞いて思わず今は亡き旧友を偲んで涙が溢れ出る~というのであれば正解です。とにかく「思わず吹き出す」という選択肢は絶対に無い。

例えば小野不由美女史の『十二国記』にも同じ様に「昭和初期の大戦中の日本から異世界へ飛ばされた日本人」が登場しますが。彼は主人公らを同郷から来た同じ境遇の哀れな友人同胞として良くしてやるのでは無く、主人公らから戦後の日本は高度経済発展して自分たちは豊かな日本から来たのだという話に嫉妬して主人公らを官憲に密告して売る~という描写あります。

表面上では僅かな金銭を代価に密告する描写がありますが、その本心では自分は日本の戦時下で塗炭の苦しみを味わい、そこから抜け出して異世界転生したと思ったらこっちのでは言葉が通じず現地人から馬鹿にされ能無し下働きの下男としてその日暮らしを強いられているのに、同じ日本人の主人公らが苦しまないのはおかしいと嫉妬に狂い憎悪を燃やして復讐心に駆られての行動である事が読者には示唆されます。

ただただ流行りのネットスラングやテンプレにキャラを当てはめて行くだけの話と、精緻な取材と日々の人間観察からもたらされる普通の人々の描写には、いわゆる「ならう系作家」と文章力を鍛えた作家との違いが歴然と表れる部分です。現実の自衛隊はエルフを守らないし、現実の中国人は約束を守ります。

巷の噂ではスラ太郎ビジネスは大成功で億単位の儲けが出てるとか出てないとかだそうで。そこは売れれば官軍の世界ですから、原作者の人は脱税でパクられない様に注意して一財産を築いた後は堅実な運営を心がけて欲しいものです(笑)。