最終アニメ批評::ガールズ&パンツァー -GIRLS und PANZER-
素晴らしいの一言。
本来であればボロットアニメが行うべきであろう、フルCGを駆使しての高速戦車アクション!特に最後、姉妹同士の一騎打ちのシーンは、戦車ヲタクならずとも見てる者全てを興奮させ震えさせるに十分な仕上がりでした!お見事!!
Aパート、Bパートで変に話を分けずに、1話30分を丸々決勝戦の描写につぎ込んで、余計な後日談とかを一切入れなかった事も非常に良かったです。何か最近のアニメって、最終回は必ずOPカットして冒頭からいきなり話に入って、ラストはロングver.のOPを流すのが流行りとか以前にテンプレ化して来てたケド。キッチリと通常版OPから入って、普通に最終回を行った心意気や良し。
ストーリや演出も非常に良く。大洗チームの勝利がいわゆる根性や気合、ましてや友情の勝利などでは決して無く。しかし絶体絶命の窮地からの完全に奇跡の勝利をもぎ取るまでの、西住殿の冷静な戦術判断と大胆な決断力。最初の対ダージリン戦で1度は失敗した戦術を、今回も敢えて恐れずに、しかし確実に練度の上がった仲間を信じて敢行する勇気とあくまでも冷徹な戦力判断。西住殿は最高のコマンダーです!アニメ史上に残る屈指の最終決戦劇だったと思います。
>西住姉妹
互いに西住流師範としての実力も手の内も知り尽くした上でのタイマン勝負。
細かい描写ですが、お姉さんが決して妹さんの実力を侮っていない事は、事ある毎に「フラグ車を潰せ」と檄を飛ばします。これはプラウダ戦の敗因をきちんと分析済みで、黒森峰側が火力装甲共に大きく上回っているにも関わらず、決して過剰な殲滅作戦などには出ずに、慎重確実に西住殿のフラグ車のみをターゲットにしようとしている事からも分かります。
また11話ラストで満を持して登場する決戦兵器マウスも、西住殿が軽戦車主体の大洗チームの機動力を最大限に生かして、重戦車主体の黒森峰チームを少しでも自軍有利な市街戦へと持ち込もうとするであろう事を事前に予測しての配置。お姉さん自身も西住殿に決して負けると劣らない、いや寧ろ上回ってさえいる非常に優秀なコマンダーである事が分かります。
一方の西住殿もお姉さんの実力を決して過小評価する事なく。どちらかと言うと今までは奇襲や相手の油断を突く戦いが多かったのに。今回は最初から一切の奇策を捨て、如何にして1対1の“タイマン勝負”に持ち込むかに作戦を注力させています。いわゆる「フラフラ作戦」とは「フラッグvsフラッグ」の事で、最初から真正面の一騎打ちでの決着を考えていた訳です。お姉さんはあくまでも西住流戦車道の王道を貫く戦いをするので(西住流の家訓は「突撃」)、過程はどうであれ1対1のタイマン勝負にさえ持ち込めれば、必ず正面から受けて立つ事を理解した上での作戦です。
互いに互いの信念や思い、実力や立ち位置などの全てを理解把握した上での、市街戦での一騎打ちだったのです!
>タイガーI vs 4号戦車
今までの例であれば、黒森峰フラグ車を校舎に引き込んでの。西住殿フラグ車が自ら囮となって惹き付け、その間隙を火力に優るポルシェタイガーで撃破する作戦!~的な事を考えがちなのですが…。
何故なら例年通りであれば、黒森峰の決勝戦の相手はプラウダ高校の可能性が極めて高かったので。黒森峰は常に「重戦車主体の大部隊同士による平原決戦」を主眼に置いて訓練を積んできています。そういう相手に対して重戦車のPタイガーで向かうのはむしろ相手の思う壺、逆に相手に塩を送る行為に他なりません。それ故、火力装甲共に圧倒的に劣るにも関わらず、相手の想定外である中戦車の4号で決戦に出る必要があったのです。
しかしかと言って4号なら有利に立てるかと言えば全くそんな事は無い訳で、それは西住殿も重々承知。対重戦車戦を主体に訓練と装備を積んで来ている黒森峰だからこそ、敢えての軽中戦車の4号で対峙する事によって、全てに置いて万全の王道を帰すお姉ちゃんなら、火力装甲に物を言わせた突撃戦を自重し、むしろ大洗側の出方を待ってからのカウンター戦法に徹するであろうという目論見からです。
こうする事によってイーブンには成らなくとも、少なくとも西住殿の方から主導権とまでは行かずとも、心理的プレッシャーを与えて先行権めいた物を少なからず握れるであろうという戦術判断です。さらに最後の一撃に至るまでの過程が重要で。何度も何度も砲撃を続ける事により、4号側の砲撃間隔をお姉ちゃんに意識させ、最後の一撃の瞬間だけそれよりも早く装填を行い、タイガーよりも一瞬だけ早く一撃を加える。
実戦だと目の前のタイガーを撃破しただけは勝利とは言えませんが、ここで物語の当初から繰り返し西住殿が口にして来た「戦車道は戦争じゃありません!」と言う言葉が意味を持って来ます。つまり戦車道は要はゲームに過ぎないのですから、ルールを理解しルール上での最適な行動を行った方が勝者となる!プラウダの様にルールを誤って解釈し、ルール上の勝利条件であるフラグ車を放って置いて全車輌殲滅に躍起になってしまっては、勝てる試合も落としてしまう。両者共、それを良く理解した上での一騎打ちだったのです。
>背面零距離射撃
火力装甲共に劣った側が勝つには、背面からの零距離射撃以外に勝つ方法はありません。逆に言えば火力装甲共に勝った側が負けない様にするには、背面さえ取られなければ良い訳です。
最後、校舎の中庭でタイガーと4号が互いに対角線上をキープしながら、ぐるぐると回り続けたのは。前述の事を踏まえた上での、お姉ちゃん側のタイガーが絶対に負けないための戦術な訳で。それに対して西住殿は何とか4号の機動力を生かしてタイガーの背面を取りたかった訳ですが、お姉ちゃんは絶対にそれをさせない立ち回りを見せていた訳です。さらに西住殿が不利だったのは、時間経過と共に他の黒森峰の戦車が援軍に1台でもあの場に到着した時点で、事実上の負けが確定してしまいます(重戦車2台に市街戦で挟み撃ちにされたら終わり)。
そこでもう他に手は無いと判断した西住殿は、最初の対チャーチル戦で行った、TOPスピードからの信地旋回を利用した回り込みで零距離に着けての砲撃に賭ける訳です。が、無闇に博打を打って出てもお姉ちゃん相手には通じない事は百も承知。そこで今まで散々、前振りで砲撃間隔を相手側に体感で染み込ませて置いて、次の砲撃までならタイガー側の方が間に合うという判断をお姉ちゃん側から引き出し。西住殿は、そこに生じる一瞬一回のチャンスに全てを賭けた回り込みだったのです。
結果、一瞬だけ早く4号の砲撃が間に合い、無敵のタイガーを撃破という奇跡を成し遂げるのです!
>演出
とにかく富野ガンダムみたいにキャラが無駄口叩かないのがイイ!
あんこうチームの皆んなも戦闘中に喚いたりしないし。何より最後の最後の回り込んでの砲撃の時に、西住殿が「ハナさん頼みます~!」とか言わずに、双方のキャラ達が一切喋らずに純粋に戦車同士のアクション描写オンリーに徹していた事がとても良かったです!また西住殿もお姉ちゃんも、一騎打ちのシーンでは常に相手の車輌から絶対に目を離さずに、常に冷静にチームの皆んなに指示を出し続けていたのも良かったです。こういう描写あるからこそ、逆に無駄口が多かったカチューシャやサンダースの盗聴野郎があまり良い戦車乗りでは無い事が対比として引き立ちます。いわゆるアニメ漫画でヒロインは格別の美人に描かれて無くてはならない法則と同様で、こうする事によって西住殿もお姉ちゃんが作品内世界では、他者とは別格の戦車乗りである事が記号化されるのです。
このアニメ最大の見せ場だった最後の西住姉妹の一騎打ち。ここも要は簡単な話、一番装甲がペラい真後ろから攻撃するだけって言う、素人目にも分かり易い“必殺技(笑)”だったのも良かったですね。やる事自体は超簡単なんだけど、その簡単な一撃に持って行くまでの過程が難しいっていうね。それをアニメ的に最も効果的に見せつけるのが例の「高速ドリフトからの背面回り込み」な訳ですよ(笑)!これも最初に対ダージリン戦で1回見せて置いて、序盤の掴みもガッチリキープしつつ。最終決戦では同じ事の繰り返しじゃあ盛り上がらないので、ちゃんと最後の必殺技に相応しくアレンジされてます。対ダージリン戦の時はそもそも撃破失敗してますし、回り込み距離自体も少なく、チャーチル戦車の真横に着けるのが精一杯だった(そのため重装甲を4号の75mmでは撃ち抜けず負けた)。
しかし最終回ではその失敗の経験を生かして、横では無く最もタイガーの装甲がペラい真後ろに着け。そのため履帯(キャタピラ)が吹っ飛び、火花散らしながらの高速ドリフトとなったですが。それ故に最終決戦に相応しい必殺技としての華のあるアクションに仕上がったと思います。戦車の知識が無い素人目にも、履帯がちぎれ飛んで火花飛ばしながらのドリフト走行を見れば一目瞭然。何か凄い事を成し遂げたのだと映像的表現する事がアニメでは非常に大事なのです(それがどんなにリアルに考証されてても映像的に分かり難い必殺技は良くない)!
他にも98式やヘッツアーが協力してマウスを仕留めるシーン。実際にはマウスは200t近い重量がありますので、ヘッツアーが潜り込んだら瞬間に圧殺プレスされてしまうと思いますが(笑)。ああいうリアルを無視したアニメ戦術は見てる人にとって必要なシーンなのでやるべきなのです。エレファントやハンティングタイガーを仕留めるシーンも同じで、専門知識が無くても素人目でその理屈が分かる様に描写するのはとても重要な事です。
そして繰り返しになりますが、やはり優勝した後で長々と後日談を一切やらずに。スパっと凱旋シーンだけで香港カンフー映画の如く潔く終わるのも秀逸です(笑)。美味しいものはそのまま頂くだけで充分美味しいです。マヨネーズはいりません!
P.S.
これだけ空前の大ヒットとなった訳ですので、当然ながら早くも「第2期を!」の声が上がるのも已む無しですが…。自分的にはこれで完結として、水島さんにはまた何か他の話をやって欲しいです。何つ~か、『DARKER THAN BLACK』や『コードギアス』みたいになって欲しくない(笑)!
仮にやるとしたら…あの黒森峰の副隊長をやってた、確か「逸見エリカ」さん?彼女を主役にした、黒森峰のその後をやって欲しいかな?あのままだと単に彼女、いけ好かない性悪女で終わってるので(笑)。何つ~か、名門の中にあって常にNo.2としてお姉さんのサポート役に徹して来た彼女が。今回のまさかの敗戦(しかも2連続決勝敗退!)で自信もプライドも粉々に砕け散って、それでも副長としてお姉さん無き後の名門黒森峰戦車道を引っ張っていかないとならない葛藤と苦悩を描いて欲しい♪