日記:2019-02-02

新春アニメ批評: 荒野のコトブキ飛行隊

水島作品でガルパンみたいな兵器女子モノと来れば、否が応にも期待感MAXに高まるので致し方ないのかもしれませんが…正直、期待ハズレというか初っ端から全体的に手抜き臭というか、こだわり感がまるで感じられずに凄く1話自体の話の中身が薄い感じがします。少なくとも面白くはないですね。

あとCG作画の技術力が余りにもヘボ過ぎる…!たつき以下レベルで正直、見苦しいレベル。それに要所々々で手描きセルアニメと混在するのも見ている方からしたら苦痛。だったら最初から「ぷるキュー」でいいから全部手描き作画でやって貰った方が違和感無くて良い。とにかくダメなアニメの見本みたいになってて、この先を見たいと全く思わせない。商業アニメ作品としては致命的。期待していたCG作画による空戦シーンも、のっぺりとした固定カメラ視点ばかりで、戦闘機の動きにも特に何の捻りも無く非常に平坦に感じました。

そして自分が最も違和感というか疑問を感じた部分は、コトブキ飛行隊の面々が意気揚々と発艦して飛び立って行くシーン。劇中ではかなりの高々度空域を飛行しているはずなのに、離発着口が開いても風一つ流れ込む描写が無いし、そもそも主人公らがヒコーキ野郎のくせに軽装過ぎ。あんな日帰りピクニックに行く様な服装で飛んだら凍死するから。大戦中のゼロ戦乗りを戦後に映画化した作品内でも密かに想う子女が予科練男子にメリヤスのマフラーを渡すシーン等が描写されてますが、あれは実際に当時の航空機には暖房設備が皆無だったので防寒対策としてのマフラーと毛皮の飛行帽は欠かせなかったんです。

同様の理由で実際の大戦中の飛行士の体験談として、余りにも寒くてケツから冷え込むので、本来は脱出用のパラシュートを座席の下に座布団代わり敷いてるのを、もっとフカフカで温かい毛皮の座布団に変えて実戦飛行していた~みたいな手記を読んだ事もあります。当時の飛行機乗りあるあるみたいな話だったみたいですが、そのせいで敵機の襲撃を受けた際には脱出出来ずに墜落死した隊員もいたみたいな話だったと記憶してます。つまり実際の現場の飛行機乗りの立場からしてみれば、脱出出来ずに墜落死してしまうよりも「寒いのは嫌なんです~!」というのが切実な本音だった事が伺い知れるエピソードです。戦争には我々、平和ボケした平成人の科学的主張などが入り込む余地は無いのです。

そしてもう一つは離発着の時に必要な滑走路の長さ問題。比較的、短い距離で離発着出来る様に設計された零式艦上戦闘機(21型ゼロ戦)でさえも通常は最短で180m程度、向かい風ならば条件が良ければ70mで離陸出来たとあるので。あのツェッペリン号が全長235mだったので、まあ離陸にはギリギリ足りてるとは思いますが(それでも無風状態だと大幅に滑走距離は伸びる)…問題は着陸(着艦)の時です。大戦中のゼロ戦乗りの証言として着陸には500mくらい必要だったと言ってるので、史上最大級の飛行船でも半分以下の滑走路しか確保出来ませんね。はいコトブキ飛行隊、死んだ~!一旦、着艦したら最後、もう二度と母線には戻れない地獄への片道キップ状態。せっかく針の穴を通す様な抜群の飛行操縦技術をもって母船の格納庫に着艦しても、止まり切れずにそのまま飛行船内部を通過して外へ飛び出てしまいます(第1話Aパートで全員死亡ED…となる方がまだ面白い)。

これはあり得ないミスですね。少しでも下調べをしたのであれば、離陸発艦時には蒸気カタパルトで推進力を付与して押し出し、着陸着艦時には着陸フックを出して着艦ロープに引っ掛けて急停止させる描写が欠かせない事くらいすぐに思い付くはずです。大戦中の戦闘機という設定のはずなのに、何か反重力的なフシギな力で飛んでいる様な描写になってます。前述の様にこの事に少しでも気付いていれば、飛行船内の格納庫内であっても無風状態が逆に危険でオカシイ事に気付くはずです(風が無いと基本的に短い滑走距離では離陸出来ない)。仮に数値スペック的には充分な着陸距離を確保出来ていたとしても、どこまでも地続きな地上の飛行場などとは違い、ほんの数cmオーバーしただけでも真っ逆さまに落ちて地獄行きの空の上です。普通に考えて現代航空母艦で離発着する艦載機の様に、着艦ロープを張ってそこに飛行機側の着艦フックを引っ掛けて物理的に短い距離で停止着艦させるシステムにするでしょ。物理的にも人的心理的にもおかしな描写としか言い様がありません。

さらにこれはもう致命的だと思ったのは、飛行船から戦闘機が飛び立つシーンに全く臨場感や迫力が無い。ただ主人公らが漠然とコピットに入って漠然とプロペラが回って、ス~ッと反重力エンジンで飛び立って行くだけ(笑)。F4F(グラマン.ワイルドキャット)みたいに離陸後にパイロットが必死こいて離着陸用の車輪を手動のハンドル巻き上げ式でグルグル回しながら胴体内部に格納するとかのシーンを盛り込めば良かったのに。それに馬鹿の一つ覚えみたいに主人公機は零戦や隼の旧日本軍戦闘機…せめて雷電とか鍾馗みたいなマニア心をくすぐる一品ならまだしも、何の捻りも無いド定番でしかも格好悪い。そこはベタでも良いから震電とか橘花とか色々あっただろうに…正直、どうしちゃったの水島監督?て思いました。

この手の架空戦争モノを見る側が期待する醍醐味の一つに「現実ではあり得ない機種の組み合わせによる混成部隊」があります。古くは『エリア88』に描かれた「F14トムキャットとIAIクフィルの混成部隊」などです。前作の『ガルパン』でも「3突とM3が同じ学園チーム」として描かれていますよね(決してドイツ軍戦車縛りなどしていない)。こういう場合はむしろ敵側の方にシルエット効果を出すために米軍機で揃えるとか、フランス軍機で揃えるみたいな描き方をするのが一つの作法の様なモノです。にも関わらず今回の荒ブキ飛行隊の使用機体は全員同じ隼…もうねとしか言い様がありません。

いやそこは各人、違った別々の機体に乗せんかいと。で、主人公は途中で機体が大破して新型機に乗り換えるまでがお約束でしょうがと。つ~か最初から現実離れした架空戦争モノなんですから、実際の大戦中では使えなかったポンコツ機種であっても、アニメの中であれば大活躍させる事が出来るのが利点だし、見る方もそういったファンタジーを見たくて視聴してる訳ですよ。いまマジで隼は無い。普通はP38とかF4Uコルセアとか、見た目が格好良い大戦機は幾らでもあるでしょうに。よりにもよって一番ダサい機種を選ばなくていいじゃんとしか。

後、これを言ったら御仕舞いな気もするけど…ぶっちゃけ大戦中のレシプロ戦闘機ってどれも基本は同じシルエットなんで、アニメで作画映えしないよね…(笑)。もうその時点でプロとしての選定眼を疑います。企画段階で飛行機ありきで進んでいたのであれば、そこは性能とか歴史背景をガン無視して第1次世界大戦の時の複葉機をメインに機種を選んだ方が全体的に見栄えも良く、また古く性能が良くない機体故の色々なドラマとかも作りやすいしマニア好みの話もやりやすい様に思います。あの「赤い彗星」のモチーフになったと言われている "レッドバロン" ことリヒトホーフェン卿の愛機も複葉機ですからね(フォッカーDr.I)。

まあとにかくガッカリ感だけが残り、何も爽快感や期待感を生み出せなかった作品というのが自分の偽らざる感想です。2話まで見て心が決まりました。グッバイ、水島(笑)!また会う日まで。

P.S.
何か3話?か何かでようやく機体整備シーンからのエンジン始動やら各種フラッペやトリムの動作チェックを行うシーンの描写があった様で。それが「さす水」と絶賛されてる様ですが…遅せェよ。だったら第1話でやっとけよ。丼の上にウンコが乗ってて、それを逃げずに我慢して食べたらその下には最高に美味しい鰻重が隠されていますよ!~みたいな話されても、お前は何を言ってるんだとしか。グッバイ、ホーエバー。